愛犬や愛猫が急にぐったりして、口の中の粘膜が真っ白になっている……。もしそんな症状に直面したら、非常に不安になりますよね。
本日は、動物たちの命に関わる重大な血液の病気、「免疫介在性溶血性貧血(IMHA)」について解説します。専門的な内容も含まれますが、愛する家族を守るために、ぜひ最後まで読んでみてください。
IMHA(免疫介在性溶血性貧血)ってどんな病気?
免疫介在性溶血性貧血(IMHA)は、本来なら体を細菌やウイルスから守るはずの「免疫系」がエラーを起こし、自分自身の赤血球を敵とみなして破壊(溶血)してしまう恐ろしい病気です。
- 犬に多く、猫には珍しい:この病気は犬や人などでよく知られており、牛、馬、ウサギなどでも報告されていますが、とくに犬で多く見られます。一方で、猫における貧血の原因としてはまれな病気です。
- どこで赤血球は壊されるのか?:赤血球の破壊は、血液中で直接壊れる「血管内溶血」と、抗体が結合した赤血球が脾臓や肝臓のマクロファージ(貪食細胞)に食べられてしまう「血管外溶血」の2つのパターンがあります。圧倒的に多いのは後者の血管外溶血です。
かかりやすい犬種と、引き金になる原因(原発性と二次性)
なぜ、自分の赤血球を攻撃してしまうのでしょうか?
- 犬の好発年齢と犬種:犬では平均して4〜5歳での発症が多いとされています。
- 遺伝的素因:コッカー・スパニエルやミニチュア・シュナウザーなどの犬種は、遺伝的にこの病気になりやすい傾向があります。
- 原発性と二次性(犬の場合):犬のIMHAの多くは原因が特定できない「原発性(特発性)」です。しかし、薬の投与、ウイルス感染、ワクチン接種、あるいは妊娠などのストレスが引き金となる「二次性」のケースも存在します。
- 猫の場合は「二次性」を疑う:犬とは対照的に、猫のIMHAは特発性であることは少なく、何らかの基礎疾患が隠れていることが大部分です。猫白血病ウイルス(FeLV)、ヘモプラズマ(Mycoplasma haemofelis)といった感染症や、リンパ腫などの腫瘍が原因(二次性)となることが一般的です。
見逃してはいけない!主な症状とサイン
赤血球は全身に酸素を運ぶ重要な役割を担っています。それが急激に壊されるため、以下のような症状が現れます。
- 極度の貧血症状:歯茎などの粘膜が真っ白になる(蒼白)、元気がない(嗜眠)、疲れやすいといった症状が急激に現れます。
- その他の全身症状:発熱、黄疸(白目や皮膚が黄色くなる)、肝臓や脾臓の腫れ(肝脾腫)を伴うことがあります。
- 日常的なサイン:頻脈(脈が速くなる)、食欲不振、嘔吐や下痢といった一見すると消化器系の不調に見える症状が出ることもあります。
最大の脅威「血栓塞栓症(けっせんそくせんしょう)」
獣医師がIMHAの治療において最も警戒するのが、血管内で血の塊ができてしまう「血栓塞栓症」です。
- 致死的な合併症:特に肺の血管に血栓が詰まる「肺血栓塞栓症(PTE)」は、IMHAの犬における主要な死因(死因の30〜60%)となります。
- なぜ血栓ができるのか?:赤血球の破壊によって凝固を促進する物質が放出されたり、全身に強い炎症が起きたりすることで、血液が極めて固まりやすい状態(血栓準備状態)に陥るためです。
動物病院で行う「診断」と「治療法」
1. 診断のロジック
- 血液検査:通常、骨髄が頑張って新しい赤血球を作ろうとしている「再生性のある重度な貧血」が認められます。
- 血液塗抹検査:血液を顕微鏡で見ると、「スフェロサイト(球状赤血球)」と呼ばれる異常な形の赤血球や、赤血球同士が自己凝集(くっつき合う)している様子が確認できることが多く、これらが診断の強い手がかりになります。なお、猫ではスフェロサイトを見つけるのが困難です。
- クームス試験:赤血球の表面に抗体が結合しているかを直接証明するための特殊な検査(直接凝集試験)を行うこともあります。
2. 治療の2本柱(免疫抑制と血栓予防)
治療は、過剰な免疫を抑え込むことと、命に関わる血栓を防ぐことの同時進行で行われます。
- 第一選択薬(ステロイド):治療の要となるのは、免疫を強力に抑える「プレドニゾロン」などのステロイド剤です。
- 第二選択薬(免疫抑制剤の追加):ステロイド単独でコントロールが難しい場合や副作用を減らしたい場合、犬ではアザチオプリン、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチルなどを併用します。猫の場合はアザチオプリンは副作用が強いため推奨されず、クロラムブシルやシクロスポリンなどが使用されます。
- 血栓症の予防:極端に血小板が減っていない限り、すべてのIMHA罹患犬に対して、ヘパリンやクロピドグレル、低用量アスピリンなどの「抗血栓薬」を早期から投与することが強く推奨されます。
- 輸血と支持療法:貧血が重度で酸欠状態に陥っている場合は、迅速な全血または濃厚赤血球の輸血が救命のために必要です。
まとめ:飼い主様が今日からできるアクション
IMHAは発症が急激で、進行が早い恐ろしい病気です。初期診療が遅れると、血栓症などの致命的な合併症を引き起こすリスクが高まります。
飼い主の皆様にお願いしたいのは、「日頃のスキンシップを通じた粘膜チェック」です。
- 歯茎の色を見る習慣をつけましょう:健康な時はきれいなピンク色をしていますが、白っぽくなっていたり、逆に黄色っぽく(黄疸)なっていたりする場合は、すぐに動物病院へ駆け込んでください。
- 尿の色もチェック:赤ワインのような色や、濃いオレンジ色の尿(ヘモグロビン尿やビリルビン尿)が出た場合も、体内で赤血球が壊れているサインです。
早期発見と適切な治療介入が、愛犬・愛猫の命を救う最大の鍵となります。
参考文献一覧
本記事は、以下の獣医学専門書および資料のエビデンスに基づき作成しています。
- Small Animal Internal Medicine
- Small Animal Critical Care Medicine
- Veterinary Immunology
- Veterinary Surgery
- Plumb’s Veterinary Drug Handbook
- Withrow and MacEwen’s Small Animal Clinical Oncology
- Fundamentals of Veterinary Clinical Pathology

